Haptic Game

触覚を使ったボードゲーム「触覚ゲーム」について考えてみました。
This page is for Haptic Games which focused on tactile recognition or haptic perception.

title of haptic game

触覚ゲームの定義/ Definition

触覚ゲームとは、ゲームのコア(メイン)となるルールに「触覚による情報識別」が使われているものと定義しました。決めておかないと、触って遊ぶゲームの幅はかなり広くなってしまい何をやっているか分からなくなります。
I defined Haptic Game as follows. Board game which uses information recognition by tactile/ haptics in its main mechanic(rule).

具体的には、それを視覚情報に置き換えたときに遊び方(プレイ感)が全く別のものになってしまうようなものを指します。つまり、単に視覚情報を触れるようにしたもの(カードの点字化など)はここでいう触覚ゲームには当てはまりません(触れるけど、触ることを遊ぶゲームではないという認識)。
Haptic Game is the game that its playing experience would be totally different when tactile information convert to visual. In other words, it is not haptic game in the definition that its tactile info merely convert to visual such as the card with braille.

触覚の種類については様々な分類がありますが、ここで参考になりそうなLoomis&Ledermanの機械的刺激に対する識別性触覚の5分類を下記に示します。(Loomie&Lederman, Tactual Perception 1986) Loomie etc classified tactile perception as follows.
1. 触覚/Tactile perception
2. 受動的筋運動感覚/Passive kinetics perception
3. 受動的触運動知覚/Passive haptic perception
4. 能動的筋運動感覚/Active kinetics perception
5. 能動的触運動知覚/Active haptic perception

この分類でいう5の「能動的触運動知覚」は、積極的にものを触ることによって生まれる知覚のことですが、これを使ったゲームが自分の考える触覚ゲームに近いと思います。筋運動感覚は、ものを乗せたり並べたりといったバランスゲームに近いと想像していますのでここでいう触覚ゲームとは違うものと思っています。
My definition of haptic game is closed to 5. Active haptic perception. Kinetics perception such as valance/ action game is not haptic games.

「触覚」は(上記より大きな分類で考えると)、痛覚、温覚、圧覚と並ぶ「皮膚感覚」の一つです。温感は、石や金属、木材ガラスなど素材の違いで表現ができそうなのでゲームに利用しても面白い気がします。
触覚ゲームの範囲を、能動的な識別のみに絞らなくても良い気もしますが、とりあえず範囲を絞らないと、なんの話をしているかわからなくなるのでまずは定義を狭めて考えてみます。
Tactile perception was one of cutaneous sensation, as well as pain sense, thermo sense, and pressure sense. Application of thermo sense (warm, cold) can be interesting by using material such as stone, metal, wood and glass.

ちなみにビデオゲームで使われる触覚は、振動によるフィードバック(e.g. Moonの魚釣り、ワンツースイッチのカウントボール)が主で、私の考える触覚ゲームのキーワード「能動的」「識別」が含まれていませんが、これからきっとそういうのも出てくるんでしょうか。

触覚ゲームの紹介/Haptic Game Example

触覚ゲームを紹介します。
触覚ゲームはいくつか存在しますが、視覚メインのものに比べて数はとても少ないです。特に幼児向け(2〜5才向け)のものが多く、大人が遊べるものはさらに少なくなります。
I rarely see haptic games as most of the game uses visual perception, and most of haptic games are for a little child (2-5 y.o.). Here I introduce some of haptic games.

TYPE1: 形状の識別

Master Fox マスターフォックス

master fox
master fox

プレイ人数:2-4人(ベスト4人)、時間:20分、年齢:7歳〜、Weight1.08/5, 発行年:2015, BGG link
ランダムに引いた3枚のカードに示された動物を、触っただけで引き当てる。お面をつけて視覚遮断している状態なので、お題の動物は最初にきちんと記憶しておかないといけなく、まずこれが結構難しい(ゲーム以前の問題か)。しかもうし、うま、豚など形もそんなに違わないので識別がかなり難しい。
触っていて「おっ」と思ったのはコマの厚み。魚のように小さいものは薄っぺらく、牛は厚みがあってボリュームを感じる。形状の識別だけでは難しい部分を、厚みや重さで補っているところが憎い。
お題が丸、四角などの単純形態でないためShape to shapeというよりは、Word to shapeの参照(一旦言語で記憶してから、触覚で形状参照)なのが、単なる子供向けのものより少し複雑性を出しているように感じた。

Dschamal ジャマール

Dschamal
dschamal2

プレイ人数:3-8人(ベスト5-8人)、時間:20分、年齢:8歳〜、Weight1.19/5, 発行年:2005, BGG link
戦略性と触覚のバランスが良い。
大きさ違い、穴のあるなし、角丸あるなし、など似たような単純形態が並ぶ。触覚ゲームの中では、戦略性がかなり高いゲーム。
一つの袋に2人同時に手を突っ込んでコマを引くのだが、すでに自分が引いたコマなのか、相手が引いていたコマなのかで獲得できるかが変わってくる。袋に入っている残りの数も計算しながら、コマを引く。

Tajuto 多重塔

tajuto

プレイ人数:2-4人(ベスト3-4人)、時間:45-60分、年齢:10歳〜、Weight2.13/5, 発行年:2005, BGG link
なんとあのクニツィア先生が、触覚を使ったゲームを出してくださった。触覚の要素は少し低めのよう。5段あるうちの、何段目の塔なのかを形で識別する。
1人で触ってみただけで、未プレイ案件。

Verfühlt nochmal!

プレイ人数:2-4人(ベスト情報なし)、時間:5-10分、年齢:3歳〜、Weight 1.00/5, 発行年:2003, BGG link
13種類ある形の違うコマを、それぞれ小袋に入れて外から触る。引いたカードに書いてあるのと同じコマを探すゲーム。形が違いすぎるので大人にはちょっと物足りない。

Verfühlt nochmal! Groß und Klein (2009)

プレイ人数:1-4人(ベスト情報なし)、時間:20分、年齢:4歳〜、Weight N/A, 発行年:2009, BGG link
車、あひる、馬、ひつじ、など形の違うコマが、大きさ違いで3つずつ入っていて、正しいものを引き当てるというゲーム。手に入らないようなので、未プレイ。

Doktor Schlüsselbart ドクター・シュリュッセルバルト

プレイ人数:2-5人(ベスト情報なし)、時間:30分、年齢:6歳〜、Weight 1.29/5, 発行年:2006, BGG link
色々な形をしたカギが袋に入っている。そこから正しいカギを引き当ててドアを開け、部屋から部屋へとどんどん進んでいくゲーム。
袋から引くという行動と、ドアに合ったカギの形を探し当てる世界観がマッチしていておもしろそうだと思ったけどなかなか手に入らないので未プレイ。

TYPE2: 長さ/大きさの識別

Froschkönig カエルがチュッ

プレイ人数:2-4人(ベスト情報なし)、時間:20分、年齢:5歳〜、Weight 1.13/5, 発行年:2003, BGG link
各プレイヤーは18本の長さの違う棒が入った袋(カエルの舌ということらしい)から、2本の棒を引く。決められた長さを越えたらバーストだが、成功したうちで一番長かった人が棒を残していくことができる。最終的に、お姫様の位置まで棒が届いたプレイヤーが勝ち。
「越えてはいけない長さ」は、現時点で最も短い(つまり負けている)プレイヤーが変えることができるので、ゲームは結構ドラマチックな展開になる。一度使った棒は袋には戻せないので、他のプレイヤーがどの長さを持っているかなんとなくわかるようになっている。まあしかし、棒のちょっとした長さの違い(5mmずつ違う)など触っただけではなかなか識別できないのである。

TYPE3: 表面の識別

紙神経衰弱

触って、同じ紙の種類を当てる神経衰弱。わからなさが楽しい。
Kino.Qサイト , プレイ人数:2-8人

Monster party

プレイ人数:2-4人(ベスト情報なし)、時間:15-20分、年齢:4歳〜、Weight N/A, 発行年:2018, BGG link
凸凹の点字で、丸やハートなどの形が作られているのを当てるゲーム。凸凹具合が結構浅いので、識別が難しい。

TYPE4: 位置の識別

Der Schaz von Castellina カステリーナの宝物

プレイ人数:2-4人(ベスト4人)、時間:15分、年齢:5歳〜、Weight 1.00/5, 発行年:2013, BGG link
立方体と円柱のコマが散乱しているのを、パッとみて位置を覚える。あとは見ずに記憶上の位置関係と手探りの触覚で自分のコマをとるゲーム。未プレイ案件。

Nyctophobia ニュクトフォビア

プレイ人数:3-5人(ベスト4人)、時間:30-45分、年齢:9歳〜、Weight 1.71/5, 発行年:2018, BGG link
漆黒の森の中にいる設定で、プレイヤーはアイマスクをつけ殺人鬼から逃げる。文字通り手探りで、コマの周りにある障害物などをさぐり当てながら行動する。触りながらコマを進めていくのと、漆黒の森という設定がマッチしていて楽しそう。私の苦手なロールプレイング要素が高そうだったので、プレイしているのを見学していた。

番外編

Mal-mal

malmal

プレイ人数:3-6人(ベスト人数情報なし)、時間:15分、年齢:4歳〜、Weight 1.00/5, 発行年:2002, BGG link
背中に書いて遊ぶ、書かれた絵や文字を当てるゲーム。受動的識別。簡単すぎてゲームにならなかった。大きさの制限を設けて、すごく小さく書いたりしたらもう少しおもしろいかもしれない。
ちなみに手のひらバージョンで「Palm reader」という別のゲームもあるらしい。

カードの選択肢から選ぶ方式だととてつもなく簡単なのだけど、twitterで下記を見つけて、細かい位置まで当てるのは難しいからこういった遊び方だとすごく面白いなと思った。

「さわる迷路」という点々を触りながら辿っていく迷路をやったことがあるけど、触覚は全体像の把握(マクロ視点?)と今自分が触っている地点(ミクロの位置)の参照が難しくてバグりが起こりがち。線をたどってるだけなのに、同じ場所を何度も何度も行き来している気がしてくる。一度スタートとゴールの位置関係を確認したはずなのに、少し気をぬくと自分の位置が分からなくて、どうしようもなくなる。この感覚はゲームにしたいと常々思っている。(触覚迷路という新作は絶賛製作中ではあるのだが)

Four senses

プレイ人数:2-3人(ベスト情報なし)、時間:10-20分、年齢:8歳〜、Weight N/A, 発行年:2017, BGG link
4×4の盤面に、コマを置いて先に特定の条件を一列揃えた方が勝ち。触って遊ぶゲームで、じっくり腰を据えて遊ぶものは少ないのでそんなゲームが好きな人に推したい。見ても遊べるけど、触っただけでも遊べる。

触覚伝言ゲーム

これはボードゲームとして販売されているものではなく、本で紹介されていたワークショップ。
1人目のプレイヤーは、「ツルツル」「ざらざら」などのオノマトペをはじめに一つ伝えられる。その触感を想起させる写真を3枚撮り、次のプレイヤーに送る。次のプレイヤーは、その写真から想起されるオノマトペを書き、さらにその触感を想起させる写真を3枚撮る。これを繰り返していくというもの。
触らずに見た目の情報で、触り心地をいかにして伝えるか、というおもしろい試み。ゲーム性は十分あるので、今度やってみたい。
詳しいワークショップの様子などは下記ご参考ください。
p483: 触感をつくる<テクタイル>という考え方, 仲谷正史 etc, 岩波書店, 2011

<実験>ボードゲームと触覚/ Element of Haptic Game

ボードーゲームにおける触覚の特徴とは何なのか?
それを探るために、実験的にすでにあるゲームを(勝手に)触覚化してみます。プレイ感の違いをみることで、触覚を使うことの特徴が見えてくるはず。
What is the characteristics/elements of haptic sensation in board game context? In order to find them, I try to change existing game rule into tactile-based rule.

触覚の特徴としてわかっていること Paper survey
(Source: 渡邊 淳司: 情報を生み出す触覚の知性, 化学同人, 2018 & 田崎權一: 触覚の心理学, ナカニシヤ出版2017)

  • 情報の意味伝達性(記号性)/ Semantic conveyability
    触覚情報(例えば硬さや粗さ、材質の違い)によって伝えられる情報量は、視覚情報や聴覚情報に比べると少ない。例えばアラーム音や、黄色などで危険や注意を知らせることは文化による多少の違いはあれど容易だが、触り心地で情報を知らせることは極めて難しい。
  • 接触(<->非接触)性/ Contact <-> Non-contact
    視覚や聴覚は遠隔感覚と言われ、遠方からでも刺激を捉えることができる。それに対し触覚は、直接刺激に触れないと認識することができない。
  • 即時性 / Immediateness
    視覚情報は入力されたらその瞬間、認識することが可能である。一方で触覚の場合は、触ってそれを識別するのにある程度の時間がかかる。

これらを利用したゲームを考えることで、新しいゲームが生まれる、気がする。

事例1: イリュージョン/ Experiment1: Illusion

イリュージョンといえば、色の占める割合順にカードを並べていくゲーム。色の割合を識別する、という視覚の部分をそのまま触覚に変換して遊んでみたら何が変わるのか、実際に模擬的に遊んで考えてみます。

色の違いにあたる、触覚の違うものを3つ用意しました。左からトレッシングペーパー(がさがさ)、カラーセロファン(つるつる)、エンボスの入った紙(でこぼこ)。

割合を変えながら5枚のカードを作ります。

それぞれの割合はこんな感じ。視覚だと1-2%の違いをジリジリ識別する楽しさを味わえるけど、触覚の場合は1-2%変えたところで識別不能なので少なくとも10%程度は変えています。

ソロテストプレイ。サイコロでどの触覚を対象にするかを決めて、ひたすら自分で触って並べています。トレッシングペーパー(ざらざら)を左から右へ、割合が多くなるよう並べます。
「さっき触ったものよりも広いのかどうか?」に集中していく、不思議なプレイ感。5枚の簡易トライアルなのでささっとやりましたが、枚数が増えていくと苦行感が出てくると思います。
やりながら複数名で遊んでいたときのことを想像し、「見ている側は何が起こっているか分からないので、手番以外の人の振る舞いが通常イリュージョンとだいぶ違う」とまず感じました。触覚ゲームでプレイヤー全員の一体感を出す、というのは自分の課題でもあります。

さて、こたえあわせ。自信はあったのに、ほとんど合っていませんでしたぞ。左が一番少なかったのは合っていたけど、早速2番目〜4番目が順番めちゃくちゃ。

触覚版Illusionの例から見つかった、触覚ゲームの特徴

  • 識別の難易度が高い
  • インタラクション性が低い(他者の同時介入がほとんど不可能)
  • 鑑賞性が低い(感覚の共有がしづらい)*秘密に情報を伝えやすい

大した発見もなかったが、私はこういったゲームにならない思いついたことを、作ったりやってみたりしないと気が済まないので、今とても満足している。

事例2: ドブル

同じ触覚を探したら、カードを重ねる。気が向いたら作る。

事例3: Duplik

触って形を認識し、それを言葉で伝える。気が向いたら作る。

触覚ゲームとはゲームなのか?

触覚ゲームを作っていると「自分は何を作っているのか?これはゲームではないのでは?」と心配になります。触覚という身体性を使っている時点で、ゲームというよりスポーツに近くなっている気がします。
では、そもそもゲームとはなんであろうか?様々な定義がされていますが、ルールズオブプレイによると、

ゲームとは、プレイヤーがルールで決められた人工的な対立に参加するシステムであり、そこから定量化できる結果が生じるもの(出展:ケーティ・サレン&エリック・ジマーマン, ルールズオブプレイ1, p62, 2019*原著は2003)

とあります。ルールによる制限があり、勝ち負けや点数化などで結果が定量化できる、の2点がポイントです。サッカーや野球などのスポーツも、ルールがあり、結果は定量化されますので、別のものだと思っていましたがスポーツもゲームの一部ということになります。パズルゲームのことは「頭の運動」と言いますし、チェスや将棋を「盤上のスポーツ」と呼んだりします。この辺りのワードから考えても、スポーツには身体性、運動が強く関わっている気がします。
ゲームの中でも、特に身体性や運動機能が強く関わるものはスポーツと呼ぶとすると、身体を使う要素がどれくらいあるとスポーツになってくるのか、ということに疑問が湧いてきます。
ジェンガやモルック、ツイスターゲームはスポーツなのではないか?触覚ゲームはどうなのか?室内でやる、机の上でやる(足は使わない)、この辺りがスポーツをスポーツたりうるキーワードになりそうな気もしますが、例外も多く、考えれば考えるほど、スポーツとゲームの境界線はグラデーションでもやもやしてくるのでありました。<何も解決していない>

触覚の参考図書

触覚について色々知りたい方へおすすめの本など

触覚の心理学, 田崎權一, ナカニシヤ出版, 2017
情報を生み出す触覚の知性, 渡邊淳司, 化学同人, 2018
触感をつくる<テクタイル>という考え方, 仲谷正史 etc, 岩波書店, 2011
触楽入門, 仲谷正史 etc, 朝日出版社, 2016