伝統ゲーム「組香」のルールがおもしろい

はじめに

先日体験した「組香」が想像以上に学び深いものだったので記録しておきたいと思い筆をとった。本記事は以下の3冊の参考図書と、2022年7月に自分で参加した組香体験を元にして書いた。

参考図書

  • 香道を楽しむための組香入門 谷川ちぐさ著 淡交社
  • 香の本 荻須昭大著 雄山閣
  • 図解香道の作法と組香 第四版 香道文化研究会編 雄山閣

組香とは

組香は「10人ほどが一つの場に集まり、香木の香気を鑑賞しながらイメージの世界を膨らませるゲーム感覚の遊び」とある。その歴史は室町時代と古く、仏教渡来に端を発しているそう。

香木(こうぼく)と呼ばれる香りを発する木を、手のひらサイズの炉で温めたものをプレイヤー間で回して順番に香りを嗅ぐのがゲームの主なかたち。香木が何なのかよく知らなかった体験前は「線香とかお香を使った、単なる香り当てゲーム」くらいの気持ちでいたが、これは何重にも間違っていた。

香木のできるプロセスが謎

まず組香で嗅ぐ香木は、実家の仏壇横にうず高く積まれた線香たちとは質を異にする。香木は樹齢50年以上の老木が、風雨や害虫などによって傷つけられ、その傷ついた箇所が微生物の作用で発酵&熟成をすることで香気を発するようになったらしい。ワインができる過程に近いのかな?元々は普通の木だが、ほぼ再現不能なアクシンデントによりたまたま香気を発するようになったため、養殖が行えない。かなり貴重なものなんだそうだ。

左が非香木(普通の木)、右が香木

ゲームの肝は「香りを当てる」ところではなかった

「香り当て」をするというのは合っていたのだが、ゲームの肝はそれではない。組香の会で表現された季節の移ろいなどのテーマを、香りを嗅ぐことで感じとる、またそのしつらえた空間の中でその一部(演者)として戯曲の一部に参加する、というところがポイントだ。ゲーム全体の流れが戯曲に喩えられているのは、体験した今ではしっくりくる。

さて組香でどうやって、季節の移ろいなどのテーマが表現されているのか?それは「ルールの作り方」。ルールでテーマや世界観を表現する、というのはゲーマー的にも興味深かったのでいくつか本で調べた例を含めて紹介したい。

ルールだけではなく、開催主によって用意された「香りそのもの」もテーマを表現するのに重要な役割を果たしている。というのは本を読んで知ったことなのだが、自分で体験したときには気づかなかった。

香木にはそれぞれ名前(銘)がつけられている。香りの系統や雰囲気から「夕月夜」「梅雨」など草花や名所、地理、故事や和歌からなぞらえたり、香り自体とは関係なく出どころから地名がついたり、その見た目から形状に関する銘(たとえば枯木、麟角)がつくこともあるらしい。そのため、桜や梅がテーマの組香の場合は、それぞれ「桜」「梅」に関連した銘の香木を使うことで、そのテーマの表現をするらしい。

ここまで知って「はっ」としたことは、先日体験した星合香で使われていた「牽牛」と「織女」は見事にいわゆるステレオタイプなジェンダー観の男と女を香りで表していたと言うこと。「牽牛」はスパイシーさがあって少し力強く、「織女」は甘みが少し強めの香り。こうして香り自体で、七夕の二人を表現していたと後から気づきその奥深さにまた感服である。

体験記「星合香」

ここからは、体験した組香を順を追って記載していく。私が体験に訪れたのは香雅堂というお店。7月だったので、七夕をテーマとした会が開催されていた。参加者は性別年代とバラバラで、8割が「一人で」「初めて」来たという方だった。

配布されたルール説明(シンプルでわかりやすい)

組香は、はじめに「試香」といっていくつかの香りを嗅いで覚え、本番で嗅いだ香りがそれぞれどれなのかを当てるのが基本のルールだ。組香の最も一般的なルールは「十種香」と呼ばれる種類のもので、記号でわかりやすく説明すると下記になる。

試香(覚えるフェーズ):A, B, Cを1回ずつ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):A*3, B*3, C*3, D*1の合計10個を順番をランダムにして嗅ぐ
10個それぞれが、試香で覚えたA, B, Cのどれなのか、もしくは嗅いだことのないDなのかを1つずつ当てていく。

識別だけでなく記憶もしておかないといけないところがとても難しい。

しかも、香水などのように香りの系統が違うもの同士なら覚えるのも少し楽だが、全部「香木」、つまり木の似たような香りが続くため、それらを識別する語彙を持ち合わせないとかなり苦戦する。(みんな仏壇の香りなのだ)

七夕の世界を体験するルール

今回体験した星合香では、まず試香で「牽牛(彦星)」と「織女(織姫)」を嗅いで覚える。

そのあと本香では「牽牛」と「織女」1つずつに、二人の邪魔をする香り5つを混ぜた合計7つの香りを嗅ぐ。7つのうち「牽牛」と「織女」が何番目に出てきたかを当てるのがゲームの目的。

織姫と彦星を無事当てることで、二人を七夕の夜に引き合わせることができる。7つそれぞれをどれか当てる、というのではなく「邪魔の中から二人を見つけ出す」という七夕の世界をルールでよく表している。

邪魔の5つの香りは本来は5つとも異なった香りらしく、本香では7種のうち嗅いだことのある2つを当てるという難しいルールらしい。今回は5つは全て同じ香りにアレンジされていたので、同じ香りが複数回出てきたと思ったら、それが答えではないと言う推測ができるイージーモードに配慮されていた。

試香(香りを記述する語彙が足りない)

試香ではまず「牽牛」「織女」の順に香炉が回ってきて、お作法通り3回の呼吸を行いそれらを記憶に留める努力をする。まず牽牛を嗅いで「仏壇ぽい」「甘い」「ちょっとスパイシー」と覚える。次に織女の香りを嗅ぐ「仏壇ぽい、甘い感じもあるぞ」さっきと同じラベル付けしか思いつかない。2つが異なる香りと言うことは少なくともわかったが、後から出てきたときにわかるだろうか。

頭からこぼれ落ちそうな香りの記憶を、言葉化はあきらめて嗅覚そのままの状態のままつなぎとめ、本香を開始。

本香

一つ目を嗅いですぐにピンときた、これはさっき嗅いだばかりの「織女」である!わかったぞわかったぞ、喜びを他の人に悟られないようにしながら続ける。

2つ目、3つ目、4つ目、と出てきて一気に不安になる。あれれ、これまで出てきた4つは同じ香りなのでは?区別のつかない香りを嗅ぎ続けている気がする、とすると牽牛も織女もこれから出てくるのか?7つとも全部同じに感じる可能性もあるな、そしたら回答はどうしよう。静かに回される炉を順に嗅ぎながら、いろんなことを考える。

ひらめきの5つ目と6つ目

5つ目がまわってきて(自分の中だけの)風向きが変わった。5つ目はこれまでと系統が違う香りがする。しかし牽牛なのか織女なのか、判断はつかない。

6つ目が回ってきた。ここで七夕の夜に、一筋の流れ星が走る。はっきりとした確信、これは「牽牛」と同じ香りがする。うまく言えないが、嗅いだ瞬間に「あれだ!」と光が見えた。このひらめきにも似た感覚は、このうまく言語化できない嗅覚特有のものなのか、他の感覚でも起こるのかはわからない。でもなんだか不思議な体験だった。

最後の7つ目、なんだかもうよくわからない。

結果発表

7つ目を嗅いだので、色紙に墨と筆で自分の回答を書き記す。牽牛は6つ目、織女は5つ目。同じ回答の人が他に二人もいる。相当な自信があった。

結果は、「牽牛」は6つ目で正解だったが、「織女」は7つ目だったようだ。正解の方は一人いて、下記の成績記録用紙をもらっていた。おめでとう。

テーマに沿った文学的称号を

点数つけはどうなるのかな?と思っていたが、結果は二つとも当てたら「星合(二人は無事会えたということ)」、牽牛片方のみ当てたら「暁雨」、織女のみ正解は「宵雨」、二つとも当たらずは「大雨」として二人の逢瀬が雨によって妨げられたことを表現。「数字の方がわかりやすいやろ」と思った私には文学の心が足りない。

おもしろいルールの組香

一度体験して、組香(と香りの言語化)に興味が沸いたので本を読んでみると、体験した「星合香」以外にもさまざまな組香があり、そのルールがテーマに沿ってかなり工夫されていることに気がついた。

ボードゲームの説明書だけを集めた本があれば読みたい、というほどゲームのルールを読むのが好きなので、組香の本は楽しく読み進めることができた。

1 鶯香(うぐいすこう)

まだ肌寒い季節に、春を告げるうぐいすの声をまちわびる気持ちを表現した組香

試香(覚えるフェーズ):「松」「竹」「梅」を1回ずつ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):松」*2「竹」*2「梅」*2「うぐいす」*1の合計7個を順番をランダムにして嗅ぐ

本香で7個を嗅ぐのは、三寒四温を表現する工夫(松竹梅は歳寒の三友と称される)
うぐいすの初音をまちわびる気持ちを表すために、1個ずつ回答を行う。*通常は一通りすべて嗅ぎ終わってから回答を記入する。
うぐいすが鳴けば寒さが終わり春がきた、ということで即座にゲームは終了する。

類似したルールを使ったものに「蛙香(かわずこう)」がある。池蛙、田蛙、沼蛙、が合唱している中に、美声で知られる井出の蛙が現れると、他の蛙が思わず美声に圧倒されて鳴き止む。という物語/歌を表現するのに、一つずつ香りを嗅いで、「井出蛙」の香りが出たら終了というルールになっている。香りの種類を工夫し、井出蛙だけ特にいい香りを使うとよいらしい。

2 潮干香(しおひこう)

貝を使って、潮干狩りを表現した組香、本物の二枚貝を使うのがポイント

試香(覚えるフェーズ):「姫貝」「簾貝」「忘貝」「帆立貝」を1回ずつ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):姫貝」「簾貝」「忘貝」「帆立貝」に「花貝」を加えた合計5個を順番をランダムにして嗅ぐ

参加者は、各自カゴに5組の二枚貝を持つ。貝には5種類の香りに対応した名前が書いてあるので、一つ香りを嗅ぐたびに、答えと思う名前の書いてある貝を片方(1枚だけ)出す。ハズレだと貝は回収され、当たっていたら戻ってくるので、2枚をペアにしてカゴに確保できる。

全問正解すると「大漁」の称号がもらえ、一つも貝が取れなかった場合は潮間が悪かったとうことで「満汐」または「磯遊び」としたためる。

3 競馬香(くらべうまこう)

赤方、黒方の二手に分かれ、馬とボードを使って競う組香。聞き当てた方の馬のコマを、ボード上で進め、どちらが先にゴールするかを競い合う。

4 梅花香(ばいかこう)

雪と白い梅との見分けがつきにくいことを表現した和歌の世界を表現した組香。

試香(覚えるフェーズ):A, Bを1回ずつ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):A*3, B*3, C*1の合計7個のうち、2個を抜いて残り5個の順番をランダムにして嗅ぐ。最後に、抜いた2個のうち一つを嗅ぐことで、同じ白さのうち雪であるか梅であるかを見分ける気持ちを表現している。

5 山路香(やまじこう)

ほととぎすの声をもう一度聞きたいという願望を、一度使った香りを再利用(?)する珍しい手法で表した組香。

試香(覚えるフェーズ):「行やらで」「山路くらしつ」「ほととぎす」「今一声の」「きかまほしさに」を1回ずつ
*「山路で思いがけずほととぎすの声を聞いたので、もう一度聞きたいと思って去り難くいたところ、とうとう1日をすごしてしまった」という意味の歌の、1句ずつを表した香りをそれぞれ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):5種をランダムにして嗅ぐ。ほととぎすの声をもう一度聞きたいという願望を叶えるために、一度使った香りを戻して、もう一度使う。つまり5種当てを、2セット行う。

香道では香りを嗅ぐことを「聞く」というのだが、香りを聞くことで鳥の声を「聞く」ことと掛けている。

6 追善香(ついぜんこう)

組香が扱うのは、四季の移ろいや新年の訪れを祝ったり等喜ばしいテーマだけだと思っていたので、死者の冥福を祈るための組香があると知って驚いた。

試香(覚えるフェーズ):「煩」「悩」「即」を1回ずつ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):「煩」*3「悩」*3「即」*3、「菩提」*2の合計11個を、順番をランダムにして嗅ぐ。1つずつそれが何か当てていく。

全部当たれば「極楽浄土」の称号がもらえるらしいが、11個すべてを当てるのは相当難易度が高い。

7 当座香(とうざこう)

嗅いだ香りを当てるだけでなく、答えに合わせて即興で歌を詠む組香。いわゆる創作系組香。

試香(覚えるフェーズ):「と」「し」「の」「せ」を1回ずつ嗅ぐ
本香(当てるフェーズ):「と」「し」「の」「せ」、に「や」を加えた5個を、順番をランダムにして嗅ぐ。

聞いた答えを折句とした即詠で答える。折句とは、各句の頭に言葉を織り込んだ和歌のこと。
たとえば上の組香の答えが順番に「せ、の、し、と、や」だった場合「静寂の のぞみうなばら 震災後 とわに願う 安らかなれと」と歌う。各句の頭文字をとると「せ、の、し、と、や」となる。

8 聞耳香(ききみみこう)

香りを使わずに、音を使ったなんとも変わり種の組香
同じ大きさの小箱に、異なる数の小豆を入れ、箱を振って中に入っている豆の数を当てる遊び。小豆の数は、すべて奇数またはすべて偶数にする。たとえば1,3,5,7または2,4,6,10など。

試香(覚えるフェーズ):1粒、3粒、5粒を1回ずつ試す
本香(当てるフェーズ):1粒、3粒、5粒、9粒の入った箱(合計4箱)を、1箱ずつ聞いていく。

さいごに

視覚情報以外を使ったあそび/ゲームを作っているので、こうした嗅覚を使ったゲームで遊べたことは今後のゲーム作りの大いなる学びとなった。

今回初めて香木というものに触れ、もっと多彩な種類の香木を嗅ぐことで、組香のゲーム体験も変わってきそうだと感じた。香道という芸道も奥が深そうなのでもう少し調べてみようと思う。

ちなみに組香体験の感染症対策は、マスク必須&検温と、消毒一人一つ配布で、香炉は回すけれど嗅ぐ時に鼻や口が触れるわけではないのでリスクは低そうに感じた。人数も減らしての開催のようだった。

体験したい方向けの外部リンク

香雅堂(東京都麻生)の体験リンク http://www.kogado.co.jp/event

香道体験記 Hanako(私の行った香雅堂での体験記のようです) https://hanako.tokyo/column/omiyu/137398/

香道を体験できる場所の紹介 https://wa-gokoro.jp/accomplishments/Kodo/176/


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